月夜の先に、見えしヒカリ2

第二夜 灰とスクラップと、アメーバの日の夜に

いやあ、なんだい? 語っちゃったなあ。

ていうかさあ、なんでそんなにしんみりしちゃってるのよ(笑)
言ったっしょ? 引くって。んもう、俺のことはいいからさあ、みんなの子供の頃、聞かせてよ。あ、すいませーん、カシスウーロンお願いします~。

カシス? 好きだねえ。甘いところがいいね(笑)
なんていうかさあ、こうウーロン茶のスキッとした感じがうまーく合わさって、いい感じなんだよねえ。また太るって? 全くその通り(笑)。

へ?

もっと聞きたい?

えー。もういいじゃん。お前のが聞きたいよ俺は。俺ばっかじゃない、さっきから話してるの。俺だって聞きたいもの。ねえ。
あ、来た来た揚げ出し豆腐。ねえ、俺の昔のことなんて別に、ねえ。
ただフェチなだけだって。それ以外は取るに足らない、ボンクラでイケてないただのデブ男の慰めでしかないんだから。それよか、お前のほうがよっぽどいい人生送ってるじゃん。

え?

そんなことねえよ。満足してるよ。
そ、そりゃあさっきは慰めって言ったけどもさあ。後悔はしてないって。散々言ってるじゃん。だた、別に特別なことでもないし、すごいわけでもないよお。

どうしても…って、言われてもなあ…。

あ、帰っちゃうの?
あ、そおおかああ、大変だよねえ…。また飲もうよ。…いやいや、もう大丈夫だから! うん、これからは多分時間取れるからさ。まあ、前もこんなこと言ってたよなあ、俺(笑)。
ほーい、じゃあね~! また電話頂戴~!

…いや、もういいって俺の昔のことは(笑)

…そお?

わかった。じゃ、つづきね。
引いても知らんよ?(笑)

中学に行っても、同じだったねえ。
いじめられるのは。うん。

区立の中学だからさ、小学校のやつらは全員同じ中学に行くわけでね。
いじめるやつも同じ中学ってこと。しかも、他の小学校からやってくるいじめっ子が加わるから、まあ、当たり前なんだよね。

まあ、俺は勘違いしてたけどね。
何か、変われるんじゃないかって。

中学デビューをしようとしたんだね、無謀にも(笑)。
自分は何にも変わってないわけですよ。泣き虫だったこと以外は。
でも、泣かなくなったことで、なんか勘違いしちゃったんだろうね。それと、全く新しい場所に行くわけだから、そういう環境のこともあったんだろうし。

今思うと、すごいことしてた。
突然黒板に、小学校でいじめていたヤツに向けて「俺は昔の俺じゃないんだ」なんてメッセージを書いてみたりとか…

うわっ、痛ぇ!!!! 自分で話してて自分が痛ぇよ! 今胸になんか刺さった(笑)。しかもマジ話だからさらに痛ぇ~~~~。はああ、マジ痛ぇって!(笑)

ていうかお前ら笑いすぎ(笑) 

はああああ、スゲエな。いろいろ思い出してきた。
あとねえ、明らかに今後番長張るだろうってくらいに強いヤツにケンカふっかけたりとかしたな。次の瞬間にブン殴られて気絶したけど。

笑うな!(笑) 笑うなって!(笑)

初めて体が動かなくなる感覚を覚えたね、そん時に(笑)。
で、そんなことしてるうちに、結局小学校のときと同じ状況になっちゃったんだね。
ほら、入学してしばらくすれば大体別れるじゃない、イケてるグループとイケてないグループと、それ以外、みたいにさ。もう俺、しっかりとイケてないグループの筆頭ですよ。本気で「雑魚」って呼ばれてた。しかもあり大抵のいけてるやつらにケンカ吹っかけては一発でのされてたから、目を付けられたんだね。カツアゲも経験したし。

高校のころもそうだったけど、そんなことばっかりだったから、同窓会とかのお知らせとか、今でも全部無視してる。
いい思い出、全然ないもん。イヤな思い出しかないよ。

あ、高校の部活OBの集まりとかには顔を出すこともあるくらいかな。
まあ…、それもつい最近になってから、かなあ…。高校の部活はめちゃくちゃ楽しかったんだけど、自分の中ですっごく思うところがあってね…。なかなか踏み出せなかったな…。

まあ、そんな感じで中学デビューは大失敗だったのね(笑)
だから、もう必死こいて勉強したよ。
それしかもう勝負できない、って思ってたから。それでなんとか自分の中の精神的なバランスを保ってたんだと思う。「アイツらより俺は勉強できるんだ」って。
ま、それも高校でガラガラと崩れちゃうんだけどね(笑)

結局、何も判ってなかった。

変わろう、変わろうと思ってても、何を変えたらいいのか、まるで判ってなかったよね。
それじゃ、何も変わらないんだよね。それにすら気づかなかった。
高校の頃にちょっとだけ気づくんだけど、それでも何も手を打てなかったし。
自分が変わらなかったら、そりゃあ何も変わらないわけでね。

もがいてたね。
何で俺はいじめられるのか、何で俺ばっかり、って、いっつも思ってた。
今から考えれば、その答えはいやというほど、そのいじめっ子が目の前で掲示してたんだよね。声に出してさ。
そこから得られるものはたくさんあったはずなんだ。
でも、何一つ理解できなかったんだね。

俺の中で、小学校と中学校の頃のことは、本当にポッカリと穴が開いた感じなんだよね。
悔いしか残ってないよ。やり直せるならやり直したい。今でもそう思う。

そりゃあ今でもたくさん自分のイケてないところはたくさんあるさ。それを直すのは大変で、自分がそれに対して努力できていないことも、よくわかってる。
でも、時々思うんだよね。
あのときに、もっと自分が、どうにか出来ていれば、今、もっとイケてたのかもしれない、って、思う。
もう仕方がないことなんだけど…、でも、時々思っては、一人で苦しんでるね。

で、話は戻っちゃうんだけど。

夢精したじゃん、俺(笑)。10歳のときに。
で、それから、新聞や雑誌とかの広告に出てくる全身タイツの写真を集めるようになったんだよね。スクラップってやつ。

まあ、平たく言えばオナペットってやつだなあ(笑)
ただ、オナペットと言い切るには、もっと高尚な感覚を持ってたような気がするね。
なんていうのかな。うーん、
希望みたいなものかもしれないね。

熱心に集めてた。わけもわからず集めてたね。
今思うと、よく集めてたなあってくらいに。スクラップブックの半分くらいを埋めてたから(笑)。

なんだろう。
何か、すがりたかったのかもしれないな。
理想郷というか、そんなものかもしれないし、憧れ…なのかなあ。

当時は間違いなく、あのフォルムの全身タイツが実在するなんて思ってもいなかったし、あったとしても、それを手に入れるとか、そういう感覚というか、観点自体がなかったからね。
とにかく、あの夢で見た全身タイツに「近いもの」をひたすら集めてた。
そりゃあ、フェイスクローズの全身タイツの絵なんて見つからないんだけど、とにかく集めてたよね。
あと、CMのチェックは欠かさなかった。もう忘れちゃったけど、いくつかのCMでフェイスオープンの全身タイツを使ったCMがあったから、その放送された時間をメモったりしてたね。ああ、ウチにはその頃ビデオなんて高尚なものはなかったから(笑)、そうなったんだけど。

うーん、そんなCMがあったかなあ…。
「丸井」? 「スパークリングセール」?
「メニコン」?
「公共広告機構」? えと、人間で人の顔を描くやつ。
うーん、全部断片的にしか覚えてないや…。

でね。

12歳のとき。
学校から帰ってみたら、そのスクラップブックが、ないんだよね。
どこを探してもないの。焦ったね。そりゃあもう必死になって探した。
でも、どこにもなかったんだ。

で、ふと、ウチの庭に目を移したら、

なんか、灰の山があるんだ。
焚き火のあとみたいな感じかな。

よ~く見たんだ、その灰をさ。

そしたら、

見覚えのある切抜きの切れ端が、あったんだね。

燃やされちゃったんだよ。
スクラップブックごと。

おそらく、お袋だろうね。
オヤジは、今もそうだけど、その日打ち合わせと人工透析で、なんかスケジュールの都合とかで、朝からいなかったから、多分オヤジじゃないんだろう、って直感した。

ああ、お袋が見つけちゃったんだ。
そう思ったら、なんか、なぜかわかんないんだけど、泣けてきたんだね。

お袋に、見られちゃいけないものを見られてしまった、ってことと
あれだけ苦労して集めたものが、一瞬にしてなくなっちゃったってことが
頭の中をグルグル駆け巡って、もう、叫びたかった。

ワンワン泣いたよ。
しばらく泣いてなかったのに、もう、幼稚園の頃の俺みたいに、泣くだけ泣いたんだ。

その頃、俺は近所の剣道教室に通っててね。
その時は稽古の日だったから、泣きはらした目で剣道に行ったんだ。

でも、興奮というか、泣きたい気持ちは止まらなくて、
教室が始まる前に、もう、体が抑えられなくて、体育館に置いてあったマットにダイブしたくなって、マットめがけて走りだしたんだ。

そのマット、高く積まれてたんだよ。
マットの高さ、1メートルくらいだったのかな。

次の瞬間、俺はマットから足を滑らせて
頭から床に落ちたんだ。

目の前が突然グチャグチャになった。
見えないわけじゃないんだけど、アメーバみたいなものが目の前でグチャグチャ、グチャグチャって動いているような感じだった。
立てたんだけど、まっすぐ歩けなかったみたいだね。

剣道の先生が慌てて親に電話して、俺は剣道の稽古もせずに家へ帰らされたんだ。
家でお袋が心配して、とりあえず飯を食えっていうんだけど、目の前がアメーバだらけだから、なんだかよくわからないまま何かをクチに入れてた。

その後は…、全然記憶にないんだよね。
あ、吐いたのだけは覚えてる。メシ食ってる時に。

あと、
お袋の悲しい顔。

何か、いろんなことを思いつめちゃってるような、とても、とても悲しい顔。
それは、なぜか頭にこびりついてるね。

気がついたら、俺はウチのベッドで寝てたんだ。
翌日の朝だったんだね。

普通に支度して、普通に学校へ行ったんだけど、
登校してる間、あのことばっかり考えてた。

もう、スクラップを集めるのはやめよう。
全身タイツのことは、忘れよう。
もう、お袋のあんな顔を見たくない。
だから、忘れよう。

気がついたら、全身タイツのことは頭になくなってたんだ。

普通のいじめられっ子のように、普通の生活をしていたと思う。
普通に女性の裸に興奮したり、普通に包茎のこととか、陰毛のこととかを気にしちゃうとうな、普通のガキだったね。
親のアトリエに行って、ヌード写真集を見ることもしなくなってたなあ。
アトリエに入ること自体、なんか怖かったのか、避けてたからね。

それよりも、多分、自分を変える…、いや、これは語弊があるな。
自分の周りが「変わる」ことを、必死に願ってたんだと思うね。
自分からは何もせずに。
ひたすら「周りが変わってくれる」ことを、祈ってたんじゃないかな。
まあ、変わりはしなかったんだけど。

俺は、ウチの学区の中でも一番遠くて、それでいて、中学校のヤツラのなかでも一番志望している奴が少ない高校を受験して、受かったんだ。
都立富士高校、って言うんだけど。

親は何度もこういったんだ。お前なら西高校いけるだけの実力があるんだから、なぜ西へ行かないんだ? って。
ウチの学区では、その頃の都立高の順番は「西→富士」の順だったんだよね。西は都立の中でも御三家って言われるくらいの進学校だったから、親としては、そっちに行って欲しかったんだろうね。

でも、俺は富士を選んだんだ。
そこで、自分はもう1回チャレンジできると信じてたんだね。
中学校では、小学校での俺のことを知ってるヤツラがたくさんいたから、デビューに失敗したんだって、だから、俺のことを知らないヤツラばっかりの高校へ行くんだ、って、本気でそう思ってたんだよね。

まあ…、その想いは、見事なまでに崩れ落ちちゃうんだけど。

高校入学のころかなあ。

ウチにやっとビデオが到着したんだ。
進学のお祝いにって、親が買ってくれたんだね。

このビデオで、俺は次の扉を開けることになったんだ。

広告のスクラップから、映像への、次のステップ。

俺は、再び思い出したんだよ。

あの、夢のことを。

続く

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月夜の光に、見えしヒカリ1

ども~~。遅れました~~~。

いやあ、仕事がパンパンでね。それでさらにトラブルも起きちゃって。もう大変っすよ~。…まあ、全部身から出たサビなんすけどね(笑)。

あ、どれだけ待ちました? あ、そう? お待たせしてすんませんです。
ま、ま、乾杯しましょ。

カンパーイ!

で、何の話で盛り上がってたの?

…あ、そう~。子どもの頃の話かあ。
で、どんな話よ。

…ふーん。そうかそうかあ。いろいろあるもんだねえ。

え?

俺?

別にねえ。たいしたことないっすよ。いや、マジマジ。
そりゃあ俺はフェチですよ?(笑) 10歳でCMに出会って、そこから俺の全身タイツライフが始まって…

え?

その前はどうなのか、って?

ん、まあ、別にいいけど、結構引くよ?(笑)

いいからいいからって言われてもなあ。いい? 引かない?

…あああ、そんな話になってたの…。かなりマジメモードに入ってたのね。

じゃ、行きますよお。俺の子どもの頃の話。

あ、そうだ、知ってる? 「子供」って差別表現らしいよ(笑)…

俺にとって、一番最初の記憶はやけにハッキリしてるんすよ。
4歳。幼稚園入園の日。

幼稚園の門をくぐって、運動場に出たときのキツイ日差しと、
日差しに照らされてキラキラ光るうんてい。
始めて見る、同じ背格好の子供たち。
たぶん、その時の俺は、初めての世界を前にした好奇心と、ワクワク感に溢れていたんじゃないかと思う。とにかく今、俺の記憶に浮かぶのは、キラキラとした日差しだね。

でね。

そこから記憶はだいぶ飛んじゃうんですよ。
ほとんど覚えてないなあ。

覚えてることは…

いじめられてるシーンばっかりっすなあ。

ウンチをもらしたことをはやし立てられてるシーン。
自分だけ工作が出来なくて、周りから野次を飛ばされてるシーン。
周りがグループで帰る中、一人だけとぼとぼ家路につくシーン。

あんまり、思い出したくないっすね。

あ、こんなのも覚えてるな。

当時幼稚園には、たしか「ひまわり」クラス、ってのがあったんすよ。
ひまわりじゃなかったかな。忘れちゃった。

簡単に言うと、情操教育専門のクラス。
幼稚園の中でも、特に教育熱心な親が、高い金を払って小学校1年レベルの教育をするっている感じ。今で言う「お受験特進コース」なーんて、ノリだったんだと思う。

他の園児が帰った後も、幼稚園に残って授業を受けてた。
うーん、はっきり言って理解はしてなかったっすねえ(笑)。
ていうか、どんなことしたかも覚えてないっす。

ただ、実家にいろんな情操教育グッズが置いてあって、それでしこたま遊んでたのは覚えてる。ひらがなが書かれたタイルとか、数字と簡単な足し算が書かれた紙切れとか。
ウチの両親、教育熱心だったからねえ。
それに俺が応え切れなかったのは、今でも悔いとして残ってますね…。
だいぶムダ金、使ったと思う。ウチの親…。

で、そんなクラスにいることをネタにしていじめられてたなあ。
「自慢するんじゃねー」みたいなこと言われてね。

でね、そんないじめに俺はどうしてたかって言ったら、
とりあえずその場で大泣きするのね。
意図的に泣いてたわけじゃないんだよ(笑)。どんな幼稚園児よ、ウソ泣きなんかできませんって(笑)。
で、「ウソ泣きすんな~」っていじめられるんだね。
自分はそんなつもり、さらさらないんだけど。

で、翌日には全部すっかり忘れてるんだよね。
それで同じ失敗して、そこを突かれるとか。その繰り返しだったなあ。

だから、当時はたぶんそんなに気にしてなかったんだろうね。
でも、徐々に気にするようになって、内に内に頭が入っていったんだと思う。
俺が覚えてる限り、小学校中学年くらいまで独り言多かったもんなあ(笑)。
幼稚園の授業中もたぶんガンガン独り言、言ってたと思うよ。
で、それでいじめられて、って感じ。

小学校に行ってもそれは変わらなかったなあ。
俺の泣き虫っぷりが全校に轟いてたらしいから(笑)。
クラスメイトだけならいざ知らず、上の学年の生徒からもいじめられてましたなあ。
それでさらに独り言ですよ。泣き虫で独り言。
しかも、俺その頃から服とか無頓着だったから、キタナイキタナイって言われてたねえ。泣き虫で独り言でキタナイ。
もうフラグ立ちっぱなしなわけ。

このころは、完全に「いじめられっこ」であることを意識してたと思う。
ただ、近所の子供とかはよく「遊ぼうとはしてた」ね。
最終的にはいじめられるんだけど。
空気読めてなかったんだろうね。

卑屈になりましたよ~。
だから、一生懸命勉強して見返そうって思ってたのは確かっすね。
で、100点取ったりすると自慢しちゃってね(笑)。
またイジメられるっつーの(笑)。

「中学受験しよう」って本気で考えたこともあったなあ。
四谷大塚なんて通っちゃってね。問題とか全然わかんねえんだけど(笑)、オヤジと一緒になって必死に解いたりしてたなあ。
今になって思うと、あのときのことは感謝してますね。
オヤジ、めちゃくちゃ俺のこと考えててくれたんだなあ、って。

まあ、その頃ウチが急激に貧乏になっていったのを肌で感じたこともあって、断念しましたけど…。

あ、あとねえ、4年の頃に急に先生に呼び出されてね。
ある書類を渡されたんすよ。
その中身が傑作でね。
肥満児や喘息持ちの児童を更正する施設への転校案内だったのね(笑)。
下田学園、って名前の、静岡県にある区の施設。
俺、そのころメチャクチャ太ってて、今を遥かに越えるデブっぷりだったんすよ。
そりゃあさらにイジメられるよね(笑)。

その書類を見たオヤジが、エラく怒ってねえ。
次の日に、オヤジが学校へ直談判に行ったんすよ。
「ふざけるな! お前の学校は、下田くんだりまで子供を隔離するのか~!」
って。

…そんな顔しないでくれよう(笑)
ほらあ、引くって言ったっしょ?
いやいやいやいや、カワイソウって(笑)。全然カワイソウじゃないから(笑)。

いやね。
今でも時々思い出しては考えるんすけど、この頃のこと、すっげー後悔してる。
あの時、俺がもっとしっかりしてれば、って、今でも頭に思い浮かべますよ。

イジメのことが最近話題になってるでしょう。
それを見るたびに思うんですよ。

…、誤解しないでね。

俺個人のことに限定すれば、だけど。
そりゃあ、イジメる側は当然悪いんだと思うけど、俺に限って言えば、いじめの原因は自分っすね。

たしかに子供だから、わかんないかもしれない。
でも、独り言とか、泣き虫とか、自慢するとか、空気読むとか、努力すればある程度身につくもんだと思うし、少なくとも俺は、その努力をしてなかったっす。
環境がそういう努力を許さなかったのかもしれないけど、最後は自分がするもんだし。
現にこうしてイジメられ続けていることに対して、努力をしなかったことは、自分がよくわかってるから。

もちろん、今起こってるイジメとは質が違うとは思ってます。
最近のイジメは理由がなかったりするからね。それと昔のイジメを比べること自体ナンセンスだとも思う。今のイジメは、多少イジメられる側に原因があるにせよないにせよ、圧倒的にいじめる側が悪いでしょう。

でも、少なくとも俺には当てはまらないですよ。
俺は、イジメられるだけの相応のスキを見せていたし、それを改善しようとしなかったのは間違いないっす。俺が悪いんですよ。

時々、苛まれることがあるですよ。
あの時、俺をいじめていたヤツラに、取り返しのつかないことをしていたんじゃないか、って。
あいつらは、おそらく理由があっていじめていたはずでね。
それなのに、俺をいじめたことで、ある程度人生を誤ったんじゃないか、って思うことがあるんす。
いじめていたヤツラは、みんな不良のレッテルを貼られていたし。

…うん。考えすぎだと思う。俺も(笑)。
でも、こんな思いが俺の頭をよぎるのは事実だし、今でも消えないです。
で、後悔するんですなあ。

それからしばらくして、泣き虫のクセが突然なくなったんです。
4年生の冬辺りじゃなかったかな。

ま、その後も引き続きいじめられましたけどね~。

理由? うーん、今でもよくわかんないっすね。
身長が急激に伸びて、一気にヤセ型の体になったこともあるんだと思いますけど。
…なに? 姿が想像つかないって? なにを~~~~(笑)
俺だってねえ、痩せてた時あるんすよ! まあ、説得力ないですけどね(笑)

でも、推測はつく。
多分、やっと空気が読めてきたんじゃないかと。

それと。やっぱり、あのことはデカかったんだろうね…。

10歳の頃。ハッキリと覚えてますよ。
あのCM。

佐藤製薬の「アセス」ってCM。
白い、フェイスオープンの全身タイツを着た女性が、歯の形にズラーっと並んで、赤いクッションに身をうずめて、クネクネするCM。

え! もうそのエピソードは聞き飽きたって!?(笑)
いいじゃん! 俺の大いなるトラウマなんすから。もう1回話させてよ(笑)。

あのCMを見て、俺はぶっちゃけボッキしたんですよ。
家族とメシを食ってるとき。人知れず、俺は体の異変に気づいてね。

驚きましたよ。
ちょっと知識があったし、その頃からクラスの男子からうすらうすらそのことは聞いてたし、この生理現象が何たるかはおぼろげながら気づいてた、んじゃないかな。

ただ、疑問に思うこともあったのね。

ウチ、両親そろって画家やってるから、ヌードポーズ集なんてそこら中にあるんですよ。デッサン用にって。オヤジの当時の作風が人物画だったから、なおさらね。
小学校3年くらいのころから、ヒマな時にそんなヌードポーズ集を眺めてたんす。

ウハハハハハハハ、ませたガキですよ、全くその通り(笑)。
でもね、なんでかボッキしなかったんですよね…。

理由は想像がつくね。見慣れちゃったんでしょうね。
2階のアトリエに行けば、親父が書くヌード画がゴマンとあったし、少なくとも、ヌードをエロスの対象としては見てなかったですね。

だから、もう、パニックですよ。
おいおいおい、と。俺は、なんでこのCMにボッキしてるのか? って。

訳わかんなかったですね。
で、晩飯もそこそこに俺は自分の部屋にこもって、ベッドに寝そべって考えてたわけです。なんで? って思いばっかり、頭の中を駆け巡っちゃってね。

その後、とりあえず平静を取り戻して、風呂入って、歯磨いて、寝たんです。
そしたらね。

その時見た夢が、すごかったんす。

出てくる人間、全員が、茶色とか、白とか、赤とか、銀とかの全身タイツを着てるんですよ。
それも全員女性。しかも、CMでは開いてた顔が、埋まってたんです。

そんな全身タイツな人たちが、なんでか野球してたり、洞窟を探検してたり、なんか踊ってたり…って絵が延々と続くわけ。
しかも皆、こっち向いてるんですよ。いや、タイツで覆われてるから目は見えませんよ?(笑)。でもその時はわかったんですよね、こっち向いてる!って。

そうしているウチにね、なんかUFOみたいなのが向こうの方からこっちにやってくるんですよ。目の前に着地したな~、って見てたら、ハッチみたいなのが開いて、そこから、銀の全身タイツを着た女性がゆっくりと降りてくるのね。顔の部分はなんか茶巾絞りみたいな模様が書かれてて、当然顔が見えないんです。

最近思い出したんだけど、この風景、どっかで見たなあ~って思っていたら、出元を見つけたのよ(笑)。ずいぶん昔のドラマなんだけど、日テレの「俺はご先祖さま」って覚えてます?

…覚えてる!? おおおおおおおお、さすがトシ食ってるだけあるねえ(笑)。

あのドラマ、マリアンが全身タイツで出て来るんだけど、1シーンだけ、顔の部分が茶巾絞りになってるのを見た石坂浩二がうわああー!って驚いて、気がついたら夢でした、みたいなシーンがあったはずなのよ(笑)。覚えてない? 覚えてない! そうかあ。残念だなああ~~~(笑)

多分、俺の記憶が間違ってなければ、あのドラマの、あのシーンのマリアンの全身タイツ姿だと思うんですよ。
で、そのマリアンが徐々に俺に近づいてくるわけ。ゆっくりと、ゆっくりと。
なんか、スッゴク甘い気分と、ホンワカした感覚の中に、狂気というか、恐怖というか、そんな思いが突き刺さったような感じがして、めちゃくちゃ怖くなって、で、「うわあああ」って叫びながら起きたんです。

そしたら、もう朝でね。

で、俺の股間が、なんかヌルヌルするわけ。

違和感に気づいて、恐る恐るパンツの中をのぞいたら…

夢精ですよ。

慌ててお袋に言いましたよ。「かあちゃん! なんか、変なのが出た! 変なのが出た!」って(笑)。

お袋は、めちゃくちゃ戸惑った顔をしながら、こう言ったんす。

「…大人になればわかるわよ」って。

それからですね…。

泣かなくなったのは…。

続く

Copyright (C) 2007 Hiroaki Ohmori / All right reserved.

脚注:

※ 俺はご先祖さま
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%BA%E3%81%AF%E3%81%94%E5%85%88%E7%A5%96%E3%81%95%E3%81%BE

1981年~1982年に放映されていたドラマです。その頃僕は8歳~9歳。見事なまでのインプリンティングですね…。

月夜の光に、見えしヒカリ(プロローグ)

昨日、下関マグロさんの出版記念パーティにお邪魔しました。

久しぶりにお逢いした皆さんとのお話、とても楽しくて、時間があっというまに過ぎていきました。

マグロさんから頂いた新作「東京アンダーグラウンドパーティ」を、今むさぼるようにして読んでいます。

なんだか、もう、懐かしくて懐かしくてしかたがなくて、甘酢っぱくて、もう、例えようのない気持ちになりました。
この本には、僕の20代の頃の思い出がパンパンにつまっています。恥ずかしいのを承知で書いてしまえば、それは間違いなく「青春」と呼ばれるものです。日本一背の高いドラァグクィーンの後を歩く僕とまだ痩せていた頃に撮られたゼンタイ姿の僕の姿。全てが、全てが懐かしい。

本を読み進めていくうちに、これまで自分が歩いてきた道をゆっくりとしたペースで書き記してみたくなりました。

自分の中にあるはずのフェチ的リビドーを無理矢理床に押し付けて、日々のイケてない生活を、何の解決策も持たないまま過ごすしかなかったあの頃。その光は、突然目の前に現れたのです。
七色に光るミラーボールと、ドラァグクィーンが身に纏うカラフルなコスチュームと、ロウソクから滴り落ちる蝋の鮮明な赤が光と混じりあっていくような、まだ見たことのない世界。僕は、その光にかすかな望みを託し、自分の足を前に進めたのです。

そして。
僕は、今もここにいます。
僕は今も、歩き続けています。真っ直ぐに。