らっぷびとの憂鬱


らっぷびと、という名前のアーティストがいます。またの名を「風玉」。

人生に飽きたなら明日から秋葉原
http://rapbit.blog110.fc2.com/

インターネット上で活動するラッパーさんです。…と書けば「そんなのたくさんいるじゃんか」とおっしゃる方も多いでしょう。
彼が市井で活動するあまたのラッパーと決定的に違うこと。それは、ニコニコ動画で一気にブレイクし、「ニコラップ」という動きを一気に加速させた、隠れた実力者である、ということです。

彼がニコニコ動画で発表した「人として軸がぶれているでらっぷしてみた」。これで彼の実力が一気に壇上へ上がりました。大槻ケンヂと絶望少女達「人として軸がぶれている」をベースにしたこの曲は、主題歌となった「さよなら絶望先生」の世界観を完全にリリックへ溶け込ませ、巧みなフロウで朗々と謳いあげた、まさしく傑作でした。残念ながら上記楽曲は権利者の要請により削除。すでに有志が19回もミラーを上げていることからも、その支持の高さが伺えます(ちなみに、ミラーも全部削除されています)。

その後、彼は同士である「みくすびと」「どうがびと」、また個別に活動していた「DJ国木田」「リモーネ先生」らと数々の作品をニコニコ動画で発表。時にはenjuにDisられながらも完璧なまでのアンサーを発表して華麗にビーフを飲み込み、はたまた「らっぷびとの火を貸すラジオ」で一定の支持を得るなど、活動範囲はかなり広い方です。

僕のお勧めは…あえてコレ。

DJ国木田のオリジナルトラックが奮っています。各所にちりばめられた音ネタのチョイスに感嘆し、そして絶妙なまでにノった彼のフロウに聞き惚れる。とてもやさしい味です。

そんな彼が、らっぷびと名義でCDをドロップするとのこと。

EXIT TUNESからのリリース(インディーズ)。値段からしてミニアルバムかEP(5曲以内)。アマゾンですでに予約中です。
もともとコミケにて涼宮ハルヒの憂鬱をベースにしたアルバムを発表するなど、アニソンをベースとした活動で知られる彼ですが、彼には別の顔があります。それが上で紹介した「風玉」です。myspaceや公式サイトもあります(あえてここでは張りません)。風玉では非常にスタンダードなヒップホップチューンを精力的にリリースしており、こちらのクオリティも高いです。気になる方はチェックしてみてください。

彼を知ったのはニコニコ動画ですが、それ以前から活動をしていることは検索した上で知っていました。一時はKEN THE 390か!?なんてうわさされた時期もありましたっけ。
彼の強みは、そのクオリティの高さに尽きると言っていいでしょう。トラックはもとより、彼のリリックとフロウはすでにメジャーアーティストの域に達しています。その気になればいつでもメジャーに行けるし、なによりレコード会社が黙っていないでしょう。これだけの曲を持っている彼のこと、チャンスはいくらだってあったはずです。
しかし、彼はそれを選ばず、あえて「らっぷびと」でのCDリリースを決意したわけで、それが彼のアティテュードなんだと一人勝手に思っています。

今、日本のヒップホップははっきりと斜陽に差し掛かっています。ZEEBRAさんが怒るのも無理ないわなあ、と思うわけですが(と前回のエントリに強引に関連付けてみる)、そんな中でニコラップ、というか、らっぷびとの活動は個人的に注目していただけに、このCDリリースはうれしい限りです。
オールドスクールでもミドルスクールでもニュースクールでもなく、ノーザンでもサウスでもウェッサイでもマイアミでもアブストラクトでもない、まさに「レペゼン秋葉原」という発想と才能。SELLOUTが進み閉塞感に包まれたこの世界で、彼のつむぐストーリーは明らかに地平線の先を向いています。
Perfumeじゃないですが、おそらくそう簡単に消費はされないでしょう。らっぷびとは見てきているはずです。目の前でたくさんのチューンが消費されているのを。どこまでもふてぶてしく、それでいてヲタ的視線全開な彼の足跡を、これからもたどって行きたいと思います。

決して、彼がハルヒのように閉鎖空間を作ることのないことを祈りつつ。