南一局、親はPerfumeですっ。よろしくお願いしまーす。


いまさらかもしれませんが。

Perfumeの勢いが止まりません。先日日本武道館2daysも決まり、まさに飛ぶ鳥を落とすほどの快進撃を続けてますね。
不肖alice、勢いあまってファンクラブに入ってしまいました。後にも先にもファンクラブに入るのは初めて。まさかここまで入れ込むとは、自分でも驚きです。

ミクシィのレビューでも書きましたが、きっかけは2004年の夏頃。
当時僕はコンビニのバイトをしていました。夜勤です。ぶっちゃけるとお金がなかったんですなあ。今もありませんが。
で、まあそのコンビニは巷の「店員がサボってるサービス精神のかけらもないコンビニ」と違い、深夜でもお客さんがひっきりなしに訪れるような忙しいお店でして、僕は三十代に入ってさらに鈍った体に鞭打ちながら、納品されてくる商品を日々棚に入れていたのですね。そのとき、妙に個性的なBGMが流れてきたんです。有線の邦楽ピックアップチャンネルだったかな。

それが、「ビタミンドロップ」でした。

当時は「おお、今時テクノポップっぽい曲だなあ」としか思っていませんでした。数あまたある「泡沫系アイドル」のひとつに過ぎないのだろうと。でも、なぜかメロディがいやに耳に残ったのも事実。そのあと暫くしてビタミンドロップは流れなくなり、曲の記憶もすっかり薄れていたのです。しかし。

2006年1月。コンビニを辞め、新たなバイトに切り替えた矢先。アレは確かテレビ東京だったと思うんですけど、「東京爆旅」という番組をたまたまテレビで見ていて、そのエンディングに流れたタイアップ曲に、僕は心を奪われてしまったんですね。

コンピュータシティ」でした。

驚きました。明らかにアイドルの方法論を超えた楽曲のクオリティ。そのままフロアでかけてもまったく遜色のないほどのベースライン。そして、そのPVで軽やかに踊る3名の、軽やかという範疇を軽く飛び越えたダンス。
まてまてまて。こりゃあホントにアレか、日本のポップスシーンを売ろうとしている楽曲なのか? それほどまでに「フロア仕様」だったのですよ。エディットこそポップスの方法論に則っていましたが、頭とケツさえリエディットしちゃえば全然問題なくフロアでかかるレベルの曲が、アイドルの曲として、テレビでかかってたわけです。
当時DKEを心身の問題でお休みしていた時期だったので、自分自身、こういった曲に飢えていたからかもしれませんが、それを差し引いてもあの曲は体中に染み入りました。で、暫く放心して、その後に「このグループは一体なんぞや?」となったわけですね。

調べてみればみるほど、僕の頭の中は「?」でいっぱいになります。彼女らはPerfumeという名前で、メジャーデビューしたてで、プロデューサーが中田ヤスタカで、ってところまで調べて、その後に出てきた「アキハバラブ」あたりで僕はハタと調べるのをやめてしまいました。え、アキバ系?

アキバ系の音では決してありません。僕だってヲタなフィールドに身をおいてもう20年になります。ヲタのベクトル位はわかっているつもりです。「アキバ系」「モモーイとコラボ」って割には、曲が明らかにアキバ系ではありません。そうだなあ、今思い返せば「AIR(代官山)」って印象でしょうか。代官山と秋葉原が全然結びつかないんです。

その後、僕の環境がめまぐるしく変わっていき、「エレクトロワールド」で再び心を奪われる中、Perfumeはアルバムを出します。Perfume~Complete Best~

このとき、僕は宇多丸さん(Rhymester)のマブ論を読み、そこで知るのです。Perfumeが実は2000年に結成されたグループであり、長い長い活動を経てメジャーデビューに漕ぎ着けたこと。このアルバムが初であるにもかかわらずベストの体をなしており、それは、所属していたユニット集団「BEE-HIVE」のアーティスト「Buzy」と同様、解散前のご祝儀的意味合いを多分に想像させたこと。そしてあの日本を代表するMicrophone No.1にして日本きってのアイドル論客である宇多丸さんが、Perfume+中田ヤスタカを手放しに絶賛しつつ、絶望的ともいえる危機感を募らせていたこと……

僕は自分の不明を恥じました。アキハバラブに引っ張られすぎじゃあないか、と。
僕は意を決してアルバムを買い、その捨て曲の一切ないクオリティの高さと、曲とダンスの間に垣間見えた世界観の奥深さに、圧倒されてしまったのです。

それから、僕は彼女らの壮大なサクセスストーリーを、リアルタイムで追いかけていきました。

チョコレイトディスコのリリースにホッと安堵し、ACのCM起用に驚愕し、木村カエラさん、掟ポルシェさんの情熱的な猛プッシュに共感し、ポリリズムのスマッシュヒットを手放しに喜び、Baby Cruising Loveの絶妙なまでの変化球に「ははーん、中田氏やるなあ」と一人評論家気取りになり、そして。

今、僕の手元に「GAME」があります。

いろいろ言われているようですね。
確かに初期、特にインディーズ時代を知るファンの皆さんにとって、このGAMEで見せた中田氏の攻めの姿勢は「SELL OUT」あるいは「Capsuleクローン」と映るのかもしれません。その気持ちはわからないでもありません。そりゃあ、これだけ売れてしまえば、もはや昔には戻れませんでしょうし。活動開始当初から応援していたバンドが、売れていくときに覚える寂しさ、と言い切れるかはわかりませんけど、そんな思いは僕だって感じたことは多くあります。

ただ、僕個人の感覚で言うならば…、今の時点でその思いはPerfumeには微塵も感じていないんですね。
むしろ、「おおおお、やりたいことやれてるじゃないですか! いい感じじゃないですか! このまま突き抜けちゃってください!」という思いが強いのです。なぜか。

理由はいくつか考えられます。

まず、「GAME」のクオリティが恐ろしいほど高く、かつ、今のクラブシーンの趨勢とエッセンスをしっかり含ませてあること。中田氏がメジャーデビュー時から進めてきた「フロア仕様」をさらに推し進めてきた、いわば規定ラインの延長上に位置していて、かつ曲の中でかなりのチャレンジをしている。僕はこのアルバムに攻めの姿勢を強く感じました。
詳細については書きたいことがいっぱいあるんですけど、省きます。すでにいろいろ論争になったことですし、それをこんな場末の日記で蒸し返しても僕自身が面白くないんで。
ていうかね、そんなことどうでもよくなっちゃうんですよね。GAME聞いてると。

ひとつの理由が、「Perfume自身がこのようなアルバムを望んでいたこと」です。
彼女らはいろんなところで話していました「次はカッコイイ曲をやりたい」と。彼女らは初めてとなる2週間のレコーディングを経て、まさに共同作業でアルバムを作ったわけです。別に曲を作ったわけでも作詞したわけでもないのだけど、中田氏は彼女らの希望に最大限応えた。その結果できたのがこのGAMEなわけです。そのほかにもたくさんのエピソードが彼女らの口からたくさん語られて、アルバムを彩る味になっています。
これまでのバックグラウンド、GAMEができるまでのプロセス、それとGAME自体を交互に堪能していく過程が、非常に楽しい。こんな楽しみ方、初めてですよ。

もうひとつ挙げましょう。
それは、Perfumeと中田ヤスタカのポジションと姿勢が、これまでにない斬新なところにいて、そこで飄々と達観していること、です。

のっち(大本彩乃)はインタビューでこう語っています。

逆に、「テレビで出るようになったから、Perfumeはもういいや」って感じで離れていった方もたしかにいらっしゃると思うんですね。それは私もわかるんです。「人に知られていないコアな存在でいてほしい」って気持ちは、私もそういう「人知れず面白いアーティスト」とか見つけるのが好きなので。
…QuickJapan 77号 66頁より

これは何ものっちに限ったわけではなく、あーちゃん(西脇綾香)、かしゆか(樫野有香)もそういった「達観した」発言を数多く残しています。なんせ自分たちが「アイドル」とか「アーティスト」であるとかあまり意識していないのです。あーちゃんがテレビ番組で「アイドルなんですか? ああ、そう捉えていただいてうれしい」としゃべり、のっちに至っては「最近は(アイドルでもアーティストでも)どちらでもないのかなと思います」と語る始末。与えられたすべての曲を咀嚼し、MIKIKO先生の振り付けを完璧にマスターし、その上でライブの曲順、構成、立ち回りを自ら考え、それでいて自分を含めたPerfumeのスタンスを「達観」している。こんなアイドルというか、歌い手さんに僕はこれまで出会ったことがありません。しかも全員、まだ成人していないのです。

そしてそれは、楽曲のプロデューサーである中田氏にも言えます。自ら「自分は音楽の人ではない」と公言し、常に今のフロアシーンを捉え、オーダーに応じた曲作りを実践している彼にとって、やれUnderWorldのパクリだ何だというのはどこ吹く風でしょう。彼はクリエイターというよりは職人さん的立ち位置にいるのだろうと思います。今フロアで支持されているフォーマットを巧みに操り、Perfumeというフィルターを通すことを前提に曲を作っている。その姿勢は彼のプロジェクトであるCapsuleや、他の提供先であるMEGの曲などとの差異を確かめれば歴然です。

さらに、それを絶妙にパッケージングしているのが関和亮氏の一貫したアートワークでしょう。メジャーデビュー時から彼のディレクションは完璧でした。中田氏の曲とPerfumeの関係性を見事に映像化しています。それを語るだけでも1本エントリができそうなので、そこらへんはまたの機会にしましょう。

つまり、チームPerfumeは全員「達観」してるんです。
それが偶然なのか必然なのかは知りませんが、少なくともその結果できた結晶が「GAME」であり、珠玉の作品に仕上がっている。これはちょっとしたスペクタクルですよ(By古泉一樹)。

まあ、そんなこんなで、僕は今Perfumeで今までにない新しい「楽しみ方」を体験しています。
彼女らのストーリーに思いを馳せ、レベルの高い楽曲に舌鼓を打ち、彼女らの高い才能のひとつであるトークセンスに心を躍らせています。そしてその先には、まだ「これからどうなるんだろう」という不安と期待と、そんなモヤモヤをきっと「達観して」乗り越えるであろうという、得体の知れない安心感がある。これほどまでに掻き立てられる存在を、放って置けるわけがありません。
そのひとつの頂点が武道館2days、そして、おそらく決定であろう「紅白」なんでしょうね。

まだ東風戦が終わったばっかり。これからがPerfumeにとって勝負の局面。
GAMEはまだまだつづきます。ただ、これまでとひとつだけ違うことがあるとするなら。

それは、次のディールはPerfumeがする、ということです。