『セカンド・インパクト』
ちーっす。WAWAWA忘れ物~っと。
あ、今日は一人なんすよ。
あ、そうなんすよ。めったに酒飲まないじゃないですか、俺。
飲んでもカクテルばっかだしね(笑)
もうさあ、マスター何も言わずにカシスウーロン出すしさあ。
いや、ありがたいっすよ。感謝感謝です。
でも、なんかほんの時々、こう飲みたいなあ、なんて思う時も、あるんすよね。
大抵そういう時はクラブにいるときのことが多いんだけどさ(笑)
いや、もう年ですよ。いい加減一晩中踊れないし。
この体重でしょ? 無理無理。
でも、やっぱり好きなんだね、ミラーボールのキラキラが。
みんなはしゃいじゃってね。楽しそうにしてるのを見るのが好きなんだろうね。
え?
あの続き話してくれって?
いやいや、別に面白くともなんともないっすよ。
ていうか、マスター聞いてたんだ、あの話(笑)
じゃあ、続き。
どこまで話したんだっけ…。
—
あ、そうでした。高校生になって、ビデオデッキが家に登場してってところまでかな。
高校? 楽しかったっすよ~。とりあえず高校デビューした気になれたからね(笑)
でも、それはぜんぜんまやかしだったなあ。
気がついたら、クラスで俺だけ浮いてるんですよ。
まあ、高校デビューしてやる! って息巻いてれば、まあ、浮くわねえ。
今となっては理由もよーくわかってて、
周りを見てなかったんですねえ。
人に合わせる、ということではなくて、周りには人がいる、ということをまったく理解してなかったってことです。
だから、わがままをいうとかじゃないんだけど、自分の我みたいなものはけっこう前に出してたんじゃないかと。
で、高校ともなればイジメ自体はなくなったんだけども、空気が違うんですね。
自分と、それ以外のクラスメイトがね。
ある程度気づくのは早かったとは思う。
それでも1年かかりましだけどね。
あ、また下手を打ってしまったんだ、俺は、と。
今でも覚えてますよ。
三学期の終業式のHRでね。
キレイに、俺の話をだれも聞いてくれないんですよ。
見てもくれやしない。
その絶望感といったら、なかったです。
今まで気づかなかった俺に頭がきて、頭が沸騰しそうだったなあ。
ソレをひきずって、2年、3年と過ごした感じですね。
でも、これまでと大きく違ったのは、
自分には逃げる場所があった、ということですかねえ。
部活がそれでした。
俺、部活に6つも入ってたんですよ(笑)
ええと、
天文部、
物理部、
文芸部、
演劇部、
軽音楽部、
アニメ研究会。
文芸部では部長してました。
天文部は居心地がよかったんですよ~。
先輩もいい人ばっかり、同期も後輩も、いいやつばっかりでした。
毎日が楽しくてねえ。
クラスのことと、ついでに勉強も全部忘れて思いっきり楽しんでましたねえ。
でも、あとで気づいたんですね。
6つもやってるでしょ。
そりゃあ、どの部活も満足にできるわけがなくてね。
しかも、文化祭実行委員長なんてやってたから、
なおさらいろいろ欲張っちゃって。
気がついたら、全部中途半端だったんですね。
いろんな人に迷惑もかけてしまった。
それで、さらに周りが見えてないから、さもありなんなわけです。
自分を過信してたんですね。ありがちですね~。
水を得た魚のように思っていて、実は、水を泳げるだけのヒレがぜんぜん成長してないわけですから。
それで泳ごうって方がムリってもんですよ。
特に、天文部と文芸部、それと、アニメ研究会のみんなにはホントに迷惑をかけてしまった。
今でも、一種のトラウマみたくなってて。
しかも、それに気づいたのが卒業してからだったから、もう手の施しようがない。
しばらく、部活のOB会とか、ぜんぜん行けなくてね。
卒業してから何度か行ったんだけど、そのときはまだ気づく前だったんですね。
大学のころにハッと気づいて、しかもそのきっかけが、天文部の大先輩だったんだけど…そのことは、また後の話になりますね。
何だかんだいって、行く勇気がわいてきたのはほんの数年前でした。
Mixiも、そのきっかけになったのかもしれないですね。
クラスで浮いちゃって。
部活はめちゃくちゃ楽しかったけど、結果的に自己否定した形になって。
しかも、数多くの失敗も重ねてきてしまったんで。
バラとかね。
まだ小中学校のころよりはよかったですけど、
しばらくは…、思い出すのもつらかったなあ。
今、またみんなと会えるようになったってことは、
俺もちっとは大人になったってことですかねえ(笑)
で、ビデオ。
マスターも聞いてたとおりで、高校は実家からかなり離れた場所にあったんす。
逃げたい一心でね。
で、そうしたら、思いがけない効果がでたんですね。
行動範囲が広がったんです。それも急激に。
すごいですよ。考えもしなかった。それまでの行動範囲はよくて池袋までだったから。
ぶっちゃけてしまうと、練馬から環状七号線を通って高円寺・中野まで、その全域がぜんぶ自分の行動範囲になったんす。
え? なんだその変な範囲は、って?
あああ、自転車通学だったんすよ。俺。
片道40分。
その通り道にあった全てのレンタルビデオ屋の会員になりまして。ええ。
嬉しかったんでしょうねえ。なんか、別の世界が広がったような気がしたんですね。
で、まあ、10以上のお店の会員になったんだけど、その中にはさ、ねえ、
結構ルーズなお店もあるわけですよ。
まあ、その。
高校生なりたてな俺にもアダルトビデオを貸すとこもあるわけですよ(笑)。
最初はさあ、そりゃあものめずらしいモンですから、手当たり次第に借りてね。
あんまり覚えてないですけど、今その経験が生きたのは大きかったなあと。
でね、それと同時期に俺、親の薦めもあって、予備校に通い始めたんですね。
天下の駿台予備学校。
何を間違ったか、難関私立大コース(笑)。
まだ高校一年でしょ? 勉強なんかするわけないんですよ。
で、当時は新宿校に寝に行ってたんだけどさ(笑)、
時々模試とかでお茶の水に行くわけですよ。
すると、そこには、宝の山がごろごろ転がってるのね。
古本ですね。いろんなお店に行きましたね。
当時はおませを通り越してましたから(笑)、当然エロ本中心だったんです。
そのときですよ。出会ってしまったのよ。
「RUBBERIST」という、海外の雑誌に。
当時、俺はラバーのラの字も知らなくて。
当然フェチという概念も知らなかったわけ。
だから、小学校の頃の思い出はしまっていたというか、なんかどうでもよくなってたのね。
変なものに興味を持ったんだな…というくらいしか考えてなかったんだけど。
あの雑誌を手に取ったときに、その全部がよみがえったんですよ。
いやいやいやいや、大げさな話じゃなくって、あのCMが何回もリピート再生されて、その向こうから焚き火の中で燃え盛るスクラップブックが俺に襲い掛かってきて、で、炎の中でゼンタイの切抜きが踊ってて。
その光景が、今手に取っている雑誌に大きく掲載されてる、全身黒づくめ…ラバーだったんですけど…の女性の姿にオーバーラップして。
しばらく立ち尽くしてたなあ。
あんまりもの衝撃に。やられちゃったんでしょうね。
で、呆然としながらその本をなんとか一冊買って、帰り道にフラッとレンタルビデオ屋に寄ったんです。
ボーっと見てましたよ。頭の中はゴムのキャットスーツばっかりでいっぱいで。
そしたらね。
目の前に、そのビデオはポツンとあったんです。
RUBBER DOLL って、書いてありました。
女優の名前は荒木美操だったと思う。さすがに記憶が薄らいでるな。
そのビデオのジャケットにはね。
ゴムのドレスを着た女性が、こっち向いてたんです。
多分、もしかしたら、これは運命なのかもしれない。
なぜかわからないんだけど、そんな言葉だけが、
俺の頭の中で、渦を巻いてたんです。
続く
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